|
空気がひんやりと肌をさすように感じられる晩秋のある日、一人の小学生が息せき切って教室に駆け込んできた。
「先生!遅くなってすみません!」
確かに他の子はそろっているが、時計を見ると約束の時間を過ぎてはいない。 この律儀なYくんが席につき、授業の用意が整ったところでいつものように宿題の点検を始める。
総合の授業は「会話」から教材が見つかる。一人一人が調べてきたことを発表したり、学校であったことなどを報告しあっているうちに疑問が生まれ、みんなで考える。ここにいる子たちは、知ることがとても楽しいらしい。
一言も聞き逃さないように、誰よりも早く考えを閃かせられるように、爛々としたまなざしで先生や仲間の話に聞き入る。大人から見てもお手本にしたい傾聴の態度だ。
そして、ユーモアも忘れない。小学生にとって受験というのは、大きなプレッシャーであろうし、来る日も来る日も難しい問題に頭を抱え、苦しいだろう。それなのに、なぜかみんな笑っている。仲間の一言がおかしかったり、問題文の中に面白味を見つけたり。
あっという間の60分が過ぎ、子供たちが家路につく。 「さようなら~。」「ありがとうございました~。」
Yくんはいつも、テキストや文房具を大事そうにカバンにしまう。ところが、そんな几帳面な彼のプラスチックの筆箱が大きく欠けてしまっている。
「どうしたの?」と尋ねると、今日は遅れそうで急いで自転車をこいできて、段差のあるところで転倒し、その拍子に鞄の中身が道路にパーンと散らばったらしい。その時の名誉(?)の負傷である。本人にけががなくて何より。
筆箱の中には愛着のあるペンや定規がびっしり。逆さにしても欠けた穴から一つも落ちてこない。
「君の頭の中も、知恵がたくさんつまっているから、入試で落ちないよ。縁起のいい筆箱だね。」と二人で笑った。
Y君は、修理することもなく、その筆箱を最後まで使い続けた。 家族、学校の先生、剣道の先生、私たちにもいつも感謝の言葉を忘れない彼である。
2月9日 立川国際中等教育学校の合格発表の掲示板に、Y君の受験番号が輝いていた。
|